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罪を犯した障がい者の地域生活移行に関する研究  
社会復帰促進センター及びウィズ広島参観報告
文責 綿貫由実子
藤本グループは平成20年3月3日~6日にかけて、黒羽刑務所・喜連川社会復帰促進センター・播磨社会復帰促進センター・加古川刑務所を、そして平成20年10月30日~11月1日にかけて、美祢社会復帰促進センター・島根あさひ社会復帰促進センター・更生保護施設ウィズ広島を参観した。平成19年度と20年度という年度をまたいだ参観であるが、いずれも参観先が「社会復帰促進センター」であるという共通性からここにまとめてご報告させていただくこととした。
1. 社会復帰促進センターの参観目的
2. 社会復帰促進センターの概要
3. 美弥社会復帰促進センター
4. 島根あさひ社会復帰促進センター
5. 喜連川社会復帰促進支援センター
6. 播磨社会復帰促進センター
7. 更生保護施設「ウィズ広島」参観
8. おわりに
社会復帰促進センターとは、効率的かつ効果的に社会資本を整備することを目的に制定された「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)」に基づいて、過剰収容の緩和や、新たな刑事施設運営の在り方を模索するなどの観点から、PFI(Private Finance Initiative)手法(公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金・ノウハウ等を活用して行う新たな手法)を用いた、官民協働の刑事施設のことである。その結果、現場の職員がやってきた従来のプログラムに加え、「特化ユニット」(知的障害を含む、心身の障害等のために特別な支援を要する受刑者を対象とする)の設置や、民間のノウハウ等を生かした新プログラムが開始されることとなったのである。
 
例えば、『犯罪白書(平成20年版)』が特集する「高齢受刑者処遇の実情」1の中でも、この点について、以下のように説明している。
 
刑務作業時間の短縮、紙細工などの軽作業を課す、保温のために衣類・寝具の貸与数を増やす、湯たんぽ・眼鏡等の貸与、疾病等の早期発見・治療などの措置は、これまでにも採られてきた。さらに、歩行・食事等の日常の動作全般にわたって介助を必要とする者、知的能力・理解力の衰えのために刑務作業や日常生活上の指示・指導に多くの時間と労力を要する者、動作が緩慢なために食事・運動・所内の移動等について、一般の動作時間に合わせた行動が困難な者などに対して、適性に応じた「養護的処遇」が行われ、軽作業中心の「養護工場」2の設置や施設のバリアフリー化も、必要に応じて行われてきた。
 
しかしこれに対して、例えば、「喜連川社会復帰促進センターでは、高齢受刑者に対し、民間会社作成のドリルを用いて計算、文字のなぞり書き、パズル等を行わせたり、高齢者向けのスポーツプログラムやフラワーアレンジメントを通して自己回復を図るプログラム等を受けさせたりすることなどにより、高齢受刑者の社会適応能力や身体機能を向上させ、改善更生の意欲を喚起し、円滑な社会復帰を促すことを目指している。同センターには、精神又は身体に障害を有する受刑者を収容する特化ユニットが設けられ、特化ユニットの収容棟と工場間を結ぶ通路は段差がなく、バリアフリーになっているほか、障害者専用浴室が備え付けられている。さらに、特化ユニットには、庭園型運動場が設置され、高齢受刑者や身体能力の低下により一般の運動ができない受刑者でも軽い運動やリハビリのための散歩ができるスペースが設けられている。」と説明しているのである。
 
このように社会復帰促進センターでは、運営開始後間もないながら、民間の資金やノウハウを活用した様々な教育・処遇が、計画・実現されつつあるのである。今回の参観は、知的障害受刑者に対する施策に止まらず、各施設における運用状況や今後の計画等についても確認することを目的としている。なぜならば、諸外国において既に成果を挙げている多様かつ柔軟な政策が実現可能となった理由の一つに、様々な分野での民営化の成果を受けて「必要なことはやってみよう」という機運が国民の間に醸成されたことを指摘する見解があるからである。いわば、今後の「官民協働のPFI刑務所」の展開如何が、我が国の矯正に止まらず、本研究が対象とする知的障害受刑者処遇の発展をも左右する可能性がある以上は、その開設当初から見守っていく必要があるのではないかと考えるからである。
1 法務省法務総合研究所編『犯罪白書(平成20年版)』太平印刷所(2008年)312頁。
2 山本譲司『獄窓記』(ポプラ社、2003年)によって一般にも広く知られるようになった黒羽刑務所の「養護工場」もその一つである。(筆者注)
藤本教授は、「諸外国の民営刑務所」の形態を類型化すると、次の5類型に分類できると考える。つまり、①施設・管理運営全体を民営化する、②施設は国・管理運営は民間、③施設は民間・管理運営は国、④施設は民間・管理運営は官民協働、⑤施設は国・管理運営は官民協働で行うというものであり、我が国の社会復帰促進センターのうち、美祢と島根あさひは④に、そして喜連川と播磨は⑤にあたるとするのである3
 
「我が国初の官民協働刑務所」と呼ばれるPFI手法を利用した社会復帰促進センターは、美祢・島根あさひ・喜連川・播磨の4施設であるが、これらはいずれも構造改革特別区域制度を活用した事業であり、構造改革特別区域法により、①刑事施設における被収容者の収容及び処遇に関する事務の一部を一定の要件をみたす民間事業者に委託すること、及び、②刑事施設の中に設けられた診療設備等の管理を公的医療機関等に委託し、地域住民に対する医療を提供するために施設の診療設備等を利用することを可能とする特例が設けられている。これを受けて、これまでに、山口県及び美祢市の計画、島根県及び浜田市の計画、栃木県・さくら市・大田原市の計画、並びに、加古川市の計画の計4つが、特区計画として認定を受けているのである。4そしてこれらの事業をそれぞれ、「美祢社会復帰促進センター整備・運営事業」、「島根あさひ社会復帰促進センター整備・運営事業」、「喜連川社会復帰促進センター等運営事業」、「播磨社会復帰促進センター等運営事業」と称し、以下の表の計画のとおりに順次運営を開始し、現在に至っているのである。
 
なお、喜連川・播磨両センターの名称の後に付属する「等」の文字は、各々のセンターの業務の中に、黒羽刑務所・加古川刑務所の運営業務の一部を含んでいることを意味するものであるため、両施設に対しても参観を実施することとした次第である。
社会復帰促進
センター
住 所 事業方式 運営開始 収容定員
美祢 山口県美祢市 BOT5 平成19年4月 男・女各500名
島根あさひ 島根県浜田市 BOT 平成20年10月 男のみ2000名
喜連川 栃木県さくら市 運営のみ 平成19年10月 男のみ2000名
播磨 兵庫県加古川市 運営のみ 平成19年10月 男のみ1000名
3 藤本哲也「諸外国におけるPFI(民営)刑務所の試み」『刑政』第119巻10号(2008年)17頁。
4 法務省矯正局「矯正の現状」『法曹時報』第60巻6号(2008年)1680~1681頁参照。
5 BOT(Build Operate Transfer)とは、PFI(Private Finance Initiative)方式にみられる形態の一つで、「建物を建設し・運営し・最終的には国に移管する」ものをいう
(1) 施設の特徴
 
本センターは、「我が国初のPFI刑務所」として、計画段階から非常に注目されてきた施設である。初の男女混合施設であり、IT化によって受刑者の独歩移動を可能にした最初の施設であり、そして「スーパーA」とも称される、最も改善更生・社会復帰に近いと思われる受刑者を、全国から集めた施設としても有名である。また、「経済効果を期待した地方自治体」が誘致合戦を繰り広げた初の施設であり、施設の本質や成果よりも、「期待したほど経済効果が上がらないという地元の不満」がマスメディアに取り上げられる等6 、様々な面で、「我が国初」に直面させられている施設である。

(2) 被収容者の特徴と参観目的
 
美祢に収容されている受刑者は学歴で選別されたわけではないといわれるが、最も社会復帰の可能性が高い受刑者を対象とする施設だけに能力の高い者も少なくない。受刑者の中には「基礎学力に劣る者を対象とする補修教科指導」を受けている者もいるが、彼らはむしろ能力の問題よりも「学ぶ機会を逸してしまった」と考えられる人々のようである。
 
以上のように美祢は本研究が対象とする知的障害者を「収容していない施設」であるが、今回あえて参観させていただいたのは、本施設が「我が国初のPFI刑務所」であるが故に、いわば、他の施設に先駆けて様々な問題に直面し、後続の施設が安心して処遇に傾注できるように、様々な問題解決の先鞭をつけることが求められている施設だからである。
 
この施設がこれまでどのような問題に直面し、どのように対処してきたのかを確認するとともに、現在の状況と今後の課題について、直接目で見、話を伺う機会を得ることは、今後の我が国の障害者処遇を考えていく上でも重要なことであろうと考え、参観させていただいた次第である。
6 例えば、『朝日新聞』(2006年10月18日)は、美祢市について「かつて炭鉱で栄え、今は過疎化に悩む地域。市は地元経済の活性化をもくろみ、あえて『迷惑施設』を誘致した。ところが、そろばん通りにはいきそうにないことがわかり、住民らの間からは『話が違う』と不満の声が上がり始めている。」と報道している。
(1) 施設の特徴
 
2008年10月に運営を開始した、犯罪傾向の進んでいない男子受刑者等2000名を収容する施設であり、その一部に「特化ユニット」を併設し、人工透析を受ける必要のある受刑者、精神障害や知的障害がある受刑者、そして身体障害がある受刑者等を収容し、理学療法や作業療法等の特別なケアを行うこととしている。
 
また、この敷地が浜田自動車道を隔ててⅠ工区とⅡ工区に分かれていることもあり、地域住民のアクセスが良いⅠ工区を「地域交流エリア」として、職員宿舎や訓練施設の他にビジターセンター等を設け、地域のイベント等に活用していただく「地域交流活動の場」としている。さらに付帯的事業として「認定こども園」を設置し、職員家族以外の地域の幼児も受け入れることや、同じく付帯的事業として盲導犬訓練センターを設置し、「盲導犬パピー育成プログラム」を地域ボランティアと共に実施することとしている。
 
そしてⅡ工区は刑事施設エリアとし、刑事施設として必要な機能を集約させている。建物には様々な工夫がなされており、例えば、渡り廊下を受刑者用と職員用に分けて効率的な動線管理を可能にしたり、収容棟に吹き抜け構造やグリーンテラスを設置すること等で生活環境を整備する一方、収容棟の中央に集中監視を可能とする監視室を設置するなど、様々な工夫がなされている。また、受刑者を独歩でセンター内を移動させる必要上、ICタグ・CCTVカメラ・赤外線センサー等を設置する他、「セーフビュー」による不正物品の持込防止を図る等の最新機能を導入している。その一方で、知的障害受刑者が迷わずに独歩で移動できるよう、方向を色や絵を使って分かりやすく指示する工夫も行っている。
 
また、食事の配膳に際して、温冷配膳車を利用することによって無人自動搬送を可能にするなどの機械化・省力化によって、処遇への人員配置を厚くするなどの工夫が行われていることも注目に値するといえよう。

(2) 処遇内容
 
島根あさひの刑務作業は、地元の営農者等からの指導を受けながら、施設内外における農林業を中心とし、職業訓練は、全受刑者を対象とする就職に必要な基礎的なビジネスやITスキルの習得のほかに専門科目として、理容師養成・ホームヘルパー2級・医療事務・PC上級・デジタルコンテンツ編集等が用意されている。
 
これに対して特化ユニットの受刑者向け作業としては、地元の伝統芸能である神楽の面作り・石州和紙・石見焼きの陶器作りなどを、地元の福祉会・和紙工房・窯元の協力を得て実施することとなっている。また、アニマルセラピーの一環として、ホース・セラピーなども計画されているということである。
7 森田裕一郎「島根あさひ社会復帰促進センターにおける新たな取組」『刑政』第119巻10号(2008年)26~34頁等を参照した。
(1) 施設の特徴
 
2007年10月、犯罪傾向の進んでいない執行刑期1年以上8年未満の男子受刑者2000名を収容対象とするPFI刑務所として運営を開始した。この施設もまた「特化ユニット」を設置しており、身体障害を有する者で養護的処遇を要する者、精神疾患・知的障害を有する者で社会適応訓練を要する者(合わせて500人程度)を収容対象とし、これらの者は、一般の受刑者とは別メニューの処遇を受けている。
 
また構造改革特区の認定によって、地元の栃木県厚生農業共同組合連合会がセンターの診療所を受託した結果、内科・整形外科・耳鼻咽喉科・皮膚科・眼科・精神科等の医師の来診や医療スタッフの常駐が可能となり、センターの診療体制が確保されている。

(2) 処遇内容
 
刑務作業は、木工・金属・クリーニング・プラスチック部品の組立・食品加工等のほか、炊場・洗濯・内掃等の自営作業もあるが、例えば、炊場の作業を調理師資格の取得に必要な実習時間に算入することができるようにするなど、当該作業を職業訓練の機会としても活用できるようになっている。しかし特化ユニットの受刑者は、能力的に軽作業しかできないために、リサイクルの分別作業等に従事することとなる。
 
職業訓練は、特化ユニットの受刑者を除く全受刑者に対して、ビジネスマナーやパソコンの基礎研修等を実施するほか、即戦力として期待できる、調理師科・クリーニング科・ホームヘルパー科・DTP科などの訓練を実施している。これに対して、特化ユニットの受刑者には、作業療法的な効果をねらった窯業科・デザインモザイク科・竹細工科の訓練を実施している。
 
また「障害を有する受刑者には、その障害類型に応じた一般改善指導を実施しており、例えば、高齢者に対しては脳の前頭前野の活性化を図るための脳トレーニング、身体障害者に対しては身体機能の維持向上を図るリハビリスポーツプログラム、精神障害者に対しては自己の障害を理解させた上で人とのコミュニケーション活動を通じて自助意識の向上を図る触れ合いプログラム、知的障害者に対しては集中力や協調性を養うための作業療法的な指導としてちぎり絵の作成などの創作活動を取り入れた指導をそれぞれ実施している。」9という。
 
しかしこのように工夫を重ねた処遇を行っても、2008年7月1日現在で約170人いる特化ユニット対象受刑者の釈放後の保護状況は厳しく、引受人が決まっている者は約4割に過ぎず、引受人がいない者等の保護環境不良な者が少なくないということである。
8 室井誠一「喜連川社会復帰促進センターの現状と課題」『刑政』第119巻10号(2008年)44~54頁他を参照。
9 室井・前掲論文・51頁。
(1) 施設の特徴
 
2007年10月から、犯罪傾向が進んでいない男子受刑者1000名を収容する施設として運営を開始した本センターも、「120人の知的・精神障害者用に『特化ユニット』ができる。障害のある受刑者は、敷地内に設けた約2800平方メートルの畑で、週4日2~3時間ずつジャガイモやカボチャなど野菜作りをする。野菜は近くの児童養護施設に無償提供。地元の営農組合が指導し、協調性や責任感とともに農作業技術も身につける。」「週5時間ほどの生活技能訓練などもする。ロールプレーを通してカッとしやすい感情を抑える訓練や、買い物・整理・あいさつの仕方などを学ぶ」と新聞10で報道される等、注目を集めている。

(2) 処遇内容
 
一般の受刑者に対しては、再犯防止に向けたプログラムを用意したり、職業訓練として、パソコン研修・ビジネスマナー・商業簿記・ホームヘルパー2級等を行い、出所後の就職先探しにも力を入れているという。
 
これに対して特化ユニットの受刑者には、犬とふれあうアニマルセラピー、野菜作りを通した園芸療法、道化師と一緒に喜怒哀楽やコミュニケーション方法を学ぶ講座などを、民間の臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士等とともに実施させる、更生プログラムに取り組んでいるということである。
10 『朝日新聞』(2007年9月29日)。
更生保護施設とは、主に保護観察所からの委託を受けて、保護観察又は更生緊急保護の対象者を宿泊させ、食事を給するほか、就職援助、相談・助言等の援助・指導等をする施設であり、民間の更生保護法人によって運営されている。平成20年4月現在、全国に101施設(男子施設89、女子施設7、男女施設5)あり、収容定員は2268人(男子が成人1802人と少年298人、女子が成人124人と少年44人)となっている。11
 
 ウィズ広島はこのうちの「男女施設」(定員39名)であり、その活動はマスメディア等にも度々取り上げられてきた他、本研究においても立教大学の小長井賀與准教授がヒヤリング調査を行っている。このため、かねてから是非一度参観させていただきたいと考えていたところ、広島を拠点に美祢・島根あさひ社会復帰促進センターを参観することとなったため、伺わせていただいた次第である。
 
知的障害者関係については、小長井先生のご研究があることもあり割愛させていただくが、施設長の鷹村先生から直接、施設の現状と課題について忌憚のないご意見を拝聴する機会を得られたことが、我々の研究にとって重要な契機となったことだけはご報告させていただきたいと思う。
11 法務省法務総合研究所編『犯罪白書(平成20年版)』太平印刷所(2008年)81頁。
以上、雑駁ながら、藤本グループが平成19年度及び20年度に実施した、社会復帰促進センターの参観報告をさせていただいた。諸外国において「民営化」は、様々な成果を上げると同時に、省庁の枠組みにとらわれない柔軟な施策を推進する原動力となってきた。このため、我々「田島班」の「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」にとっても、PFI刑務所の実情を直接目で見て現状と課題を確認する機会を得ることは、今後の矯正施設の発展のみならず、知的障害受刑者処遇の可能性を考えていく上でも重要であろうと考え、藤本グループの研究の一環として参観させていただいた次第である。諸外国において、民営化が「必要なことはやってみよう」という国民の機運を醸成したように、我が国のPFI刑務所の成果が、今後生まれてくるであろう多様な処遇や社会生活支援に結びつくのではないかと期待しているからである。
 
2009年3月、知的障害者を刑務所に収容しない大韓民国の実情と、同国の民営刑務所を始めとする関係施設の参観を行う予定であるが、これも上記と同様の意義を考えてのことであることを、ここに蛇足ながら付け加えさせていただきたいと思っている。
 
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