平成19年7月17日
厚生労働科学研究「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」
主任研究者 田島良昭
平成18年度より厚生労働科学研究で罪を犯した障がい者が矯正施設を出所した後、社会生活をしていく上でどの様な問題点があるのか、福祉サービスの利用状況や、地域の人々や関係機関からどの様な支援を受けているのか等を調査・研究し、再犯予防と本人の幸福で安定した生活を築く為の支援のあり方を検討してきました。
1. 社会生活支援センター(仮称)の設立 (法務・厚生労働省共同事業)
矯正施設、更生保護施設と福祉サービス事業等をつなぐ架け橋として、都道府県単位で社会生活支援センター(仮称)の設置を行い、下記の事業を実施する。
矯正・更生保護施設に入所中又は社会生活中であっても本人又は家族が就労、生活に関するいろいろな問題を気軽に相談できる所が必要である。
| (1) |
福祉サービスに関すること。 |
| (2) |
就労支援に関すること。 |
| (3) |
職業能力開発支援に関すること。 |
| (4) |
地域生活に関すること。 |
| (1) |
矯正・更生保護施設、保護観察所、福祉行政機関、福祉事業所等による合同チームをつくり、必要に応じて合同支援会議を実施する。 |
| (2) |
矯正・更生保護施設と福祉機関との連携を行い、具体的なケアの利用、福祉サービスのマネージメントを行う。 |
社会福祉法人による更生保護施設の運営。
現在、更生保護施設は、法務大臣の認可を受けて継続保護事業を営む更生保護法人によって運営されている。更生保護施設は刑務所から釈放された人や保護観察中の人などのうち、引受人がなく、あるいは適当な住居がないため更生を妨げられるおそれがある人を保護して、生活指導や職業指導などを行い、自立を援助している。現在、全国に101施設あり、再犯防止に寄与している。
釈放された知的障がい者によっては、福祉サービスにつなげていく上で種々の申請手続き等の為、実際のサービス受給までかなりの期間を要する場合がある。療育手帳等の取得、障害程度区分認定、障害基礎年金の判定・受給、福祉サービス実施市町村の決定等である。したがって、社会福祉法人による更生保護施設の運営によって、その期間、法的裏付けの中で本人を専門的に受け止め、福祉サービスに効果的につなげていくことが可能になると思われる。
[解説]
実態調査によると、一般刑務所で〈知的障害又は知的障害が疑われる者〉は410名が該当した。その中で再犯者285名の前刑時の帰住先を調査したところ、「未定・不詳」が124名(43.5)に上り、「親族(父母・兄弟を含む)」の元へ帰住した者は70名(24.5%)に留まっている。また再犯者の仮釈放による出所率が、全体の55%を下回る20%(57名)であることも同調査によって明らかになった。出所後の身分保障が安定しないことが、再犯を繰り返す要因となっていることが確認出来る。
現在その受け皿となっているのが更生保護施設であり、退所した479人中IQ69以下の者は91人(18.9%)だが、更生保護施設が社会的自立に導く支援を行うには、施設の職員体制や施設の規模から難しく、実質的には支援のないまま退所に至るのが現状である。
福祉サービスを受けるには居住地を確定する必要がある。したがって、社会福祉施設と更生保護施設が相乗りした「障害者更生保護施設」(仮称)を運営することにより、安定した帰住先の確保と共に、福祉と保護のノウハウを用いた、自立に向けた支援と他機関への橋渡しが可能になる。
障害者自立支援法における事業所指定は「事業所としての安定性・継続性を確保するとともに、サービスの質を担保し、効率的な提供が可能となるよう原則、社会福祉法に定める最低定員20人を適用」と条件づけられている。ただし、「過疎、離島地域等において利用者数を確保することが困難な場合は、都道府県の判断により、10人以上を可能とする」と例外的な取扱いを認めている。釈放された知的障がい者の受入れについては、日中活動等の福祉事業所の利用の場を拡大することにより受皿が広がる。
よって、罪を犯した障がい者は、その支援の難しさ等も鑑み、過疎、離島地域等特例と同様の取扱いとし、10人からの事業所指定を可能としてほしい。
2. 障害者療育手帳について(法務・厚生労働省共同事業)
罪を犯した障がい者の療育手帳所持率は低く、出所後に福祉の支えを得られない事が、累犯の一因となっている。取得申請上の隘路となっている下記の要件を改善し、療育手帳を取得しやすい環境を整える。
[解説]
実態調査によると、一般刑務所入所者27,024名中〈知的障害者又は知的障害が疑われる者〉が410名、少年刑務所入所者約4,000名中〈特殊教育課程H1に分類される者〉が130名確認された。その内療育手帳所持者は、前者が26名(6%)、後者が29名(23.3%)であった。
| 1. |
矯正・更生保護施設が代理人となって、療育手帳交付申請等の福祉サービスの申請が実施できるようにする。 |
[解説]
福祉サービスの受給は申請主義のため、出所と同時に福祉サービスを受給するには、矯正・更生保護施設に収容されている間に、療育手帳交付申請を行わなくてはならない。実態調査では身元引受人が「家族(父母・兄弟を含む)」となっている者は410名中108名(26.3%)であり、罪を犯した障がい者の多くは交付申請の行う「保護者」である家族との関係が無くなっていることが多い。矯正・更生保護施設は、福祉サービスを必要とする者がいる場合、本人の同意のもと代理人となって療育手帳交付申請を行う必要がある。
| 2. |
住所不定または住所に問題がある者については、矯正・更生保護施設の所在地において、療育手帳申請手続きを行なうことが可能とすること。 |
[解説]
療育手帳の交付申請は、福祉サービスの実施機関となっている居住地の市町村に行う。ただし、罪を犯した障害者で、居住地を有しないか明らかでない者は、交付申請を却下された事例が、モデル事業では報告されている。矯正・更生保護施設を「知的障害者福祉法」第九条の定める「現在の居住地」とみなし、当該施設の所在地において交付申請を行えるようにすることを要望する。
| 3. |
療育手帳取得要件を全国統一し、交付基準を緩和すること。 |
[解説]
知的障害は発達障害の為、18歳以上で療育手帳交付申請を行う場合、18歳未満で発生したことを証明する書類の添付が必要となる。罪を犯した障がい者は、家族に恵まれない者が多く、福祉サービスを受けることなく年齢を重ねていることが多いことから、必要な証言を得ることが難しい。この様な場合を想定し、判定機関等の弾力的な判断によって、療育手帳を取得出来るよう、交付基準を緩和する必要がある。
3. 障害認定区分について(厚生労働省)
罪を犯した障がい者は「社会適応性」において極めて重い障がいを持つ。この認定項目は現在の「障害認定区分」には含まれておらず、受け入れに際して必要な福祉サービスと提供できる福祉サービスのミスマッチを生んでいる。以下の点について、制度上の改正を要望する。
| 1. |
障害認定区分1次審査のチェック項目の中に、「環境適応能力」の項目を設けること。 |
| 2. |
障害認定区分2次審査に、犯罪歴、成育歴、犯罪傾向の進度等の項目を設けて、これらのことを参考にして審査していただく。 |
4. 特別加算について(厚生労働省)
「社会適応性」に極めて重い障がいを持つ者の支援には、終日職員の付き添いを含めた、多大なマンパワーを必要とする。罪を犯した障がい者を受け入れるに当たっては、下記の理由により一定の期間、特別加算の制度が必要である。
| 1. |
障害者自立支援法における日中系サービス事業と生活系サービス事業時間帯の明確な線引きを行い、責任の所在を明らかにすること。 |
[解説]
障害者自立支援法において生活系と日中系が分かれることになったが、何時から何時までが日中系、何時から何時までが生活系との明確な時間の基準がない。そのため、事故や問題等が起きた時にどちらに責任の所在があるのかはっきりしていない。また、刑務所等からの出所者(知的障がい者)は休日の過ごし方についてもマンツーマン的な見守り等を必要とするにも関らず、それを生活系で見ているのだが特に加算も付いていない。夜間支援加算に加え早朝支援加算及び休日加算の検討も必要である。
| 2. |
日中系サービス事業と生活系サービス事業の給付額を見直すこと。 |
[解説]
「社会適応性」に極めて重い障がいを持つ者の支援は、特に生活系サービスにおいて、多大なマンパワーが必要であり、リスク面で大きな負担を要する。給付単価は日中系に重きを置いており生活系は時間的に長期にわたっているにも関らず、低額設定となっており適当な支給額となっていない。日中系サービスに偏っている現在の給付単価を改める必要がある。
5. 措置制度の弾力的運用について(厚生労働省)
満期出所で尚かつ再犯の可能性が高く、社会不適応行動の改善が急務であると判断されるような人等で、契約になじまない状況の場合は、「措置制度」を柔軟に利用できるよう、行政の判断基準の見直しおよび緩和が必要と思われる。
又、措置制度の実施マニュアルを作成して、どの市町村でも実施できるようにすべきである。
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