設立趣旨

すべての人が年齢や性別、障がいの有無にかかわりなく、地域で一緒に暮らしたり働いていける「共生社会」を目指して、福祉、労働、教育などの分野で様々な取組がなされています。

そうした中で、これまで刑事司法プロセスの分野、すなわち犯罪の疑いのある人への取り調べや裁判、罪を償う矯正やその後の社会復帰については、「特殊な人たち」の世界と考えられがちで、そうした視点からの光はあまり当てられてきませんでした。

しかし、詳しく実情をみると、受刑者の1/4に知的障がいの可能性があったり、社会に受け入れられるすべをしらずに犯罪を繰り返している障がい者や少年がいたり、コミュニケーションに障がいがあるため十分な取り調べや裁判を受けられないままの人たちが多くいるなど、この分野において障がい者への配慮が不可欠なことがわかってきました。むしろ、こうしたある意味で極限の分野にこそ、社会的な弱者にとっての「生きにくさ」が集約しており、何らかの手だてが必要だということができましょう。

加えて、コミュニケーションに障がいのある人たちが動機や背景について十分理解されないままに供述調書を作られたり裁判を受け、検察や裁判所はそうした状況に目を向けることなく形式的に累犯ということのみで実刑を科す、刑の終了後は社会に受け入れられずに再び罪を犯す、また、罪を償った少年が社会に復帰できずに反社会的な大人になっていく、このようなことの繰り返しが社会の安定をおおいに阻害することは明らかでしょう。

刑事司法分野において、障がい者などの社会的弱者に特別に配慮する試みは最近になってようやく始められました。知的障がいなどによりコミュニケーションに難のある被疑者の取り調べに専門家が立ち会う制度はモデル的制度がスタートし、そのような人たちが刑を終えてから社会への復帰を目指す「地域生活定着支援センター」が各地で活動を開始しています。

また、社会復帰・自立が困難なのは障がい者だけではありません。児童養護施設を出た後の自立に多くの困難を抱えている子どもたちや行き場がないためにあえて犯罪を繰り返す高齢者、さらにはホームレスの人たちなども、社会の受け入れの仕組みが不十分であるがゆえに社会復帰や自立が困難であり、同様の支援が必要となっています。

これらの仕組みを作るためには司法のみならず福祉、労働、教育など幅広い分野からの知見、提言が必要であり、また、実際に機能させていくためには、そうした分野の協力が不可欠です。

このため民間の側から、障がいのある人たちにとっての適正な刑事司法プロセスを保障し社会復帰を進める仕組みを研究・提言するとともにそうした仕組みを実際に機能させるための活動を支援し、併せて同様の困難を抱える人たちの支援を行うための基金を設立します。

こんな状況におかれています

「罪に問われた障がい者」は 今、こうした状況におかれています。

知的障がい者などコミュニケーションに障がいを抱える人たちは、
支援体制が不十分のまま「取り調べ」や「裁判」の場におかれています。

「読む」「聞く」「自分の考えを伝える」のコミュニケーション能力に障がいがある人たちの特性

  • 相手の質問に対応した答えをすることが困難
  • 抽象化・一般化が困難(応用力に劣る)
  • 記憶が不安定
  • 見通しの欠如
  • 捜査員に迎合しやすく、誘導されやすい可能性がある
  • 伝えたいことが、捜査員に上手く伝わらない
  • 刑事手続上必要な司法手続きの諸権利が正しく伝達されていない

この人たちにとって「取り調べ」や「裁判」は、海外旅行で言葉が通じない状況と似ています。

画像:刑務所にいる受刑者の4分の1が知的障がい者(疑い含む)というデータがあります。 画像:出所をしても全体の7割が一年未満で再犯を犯してしまいます。

自らの居場所がなく、刑務所への出入りを繰り返す「負」の回転ドア現象を
引き起こしています。

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事業内容

「共生社会を創る愛の基金」は「罪に問われた障がい者」の支援を行うために、
次のような事業を行っています。

「障害のある人達にとっての適正な刑事司法プロセスを保障し社会復帰を進める仕組み」を確立し、「すべての人が年齢や性別、障害の有無にかかわりなく、地域で一緒に暮らしたり働いていける「共生社会」」を実現するために、以下の三つの事業を中心に実施します。

画像調査研究事業

調査研究事業

「罪を犯した障がい者」について、「予防」「適正な刑事司法手続き」「社会復帰」の各段階において必要な仕組みについて調査研究を実施します。

画像助成事業

助成事業

「罪を犯した障がい者」の支援や調査研究に対する助成を行います。

画像一般への広報・啓発事業

一般への広報・啓発事業

シンポジウムの開催、書籍の発行を通して、一般の方へこの問題に関する啓発を行います。

画像刑事司法プロセス

刑事司法の各段階において、障がいのある人達にとって適正な刑事司法プロセスを保障し、社会復帰を進める仕組みの確立を目指します。

事業形態

「共生社会を創る愛の基金」は社会福祉法人南高愛隣会(通称:コロニー雲仙)における公益事業として実施いたします。

公益事業としての中立公平性を重視し、基金の運用にあたっては、各分野の有識者で構成される運営委員会、企画委員会を設けます。

画像社会福祉法人南高愛隣会組織図
社会福祉法人 南高愛隣会(通称:コロニー雲仙)とは

1978年に設立された長崎県雲仙市に本部を置く社会福祉法人。知的障がい者へのサービスを中心に、長崎県下で現在74の事業を展開し、様々な障がいを持つ約1,900名が利用しています(2012年4月現在)。

「誰のための福祉か」を問い続けながら、施設や病院等の「特別な」場所ではなく、生まれ育った場所(=地域)で「ふつうの暮らし」を安心して出来る仕組みづくりに果敢に取り組んでいます。

企画委員・運営委員

運営委員会(50音順、敬称略)

浅野 史郎 慶応義塾大学教授、前宮城県知事
荒 中 弁護士、日本弁護士連合会 事務総長
板山 賢治 社会福祉法人 浴風会 顧問、元厚生労働省社会局厚生課長
伊藤 順一郎 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会復帰研究部 部長
大熊 由紀子 国際医療福祉大学大学院 教授、元朝日新聞論説委員
古賀 伸明 日本労働組合総連合会 会長
坂本 由紀子 雇用・福祉コンサルタント、元参議院議員、元厚生労働省職業能力開発局長
清水 義悳 更生保護法人 清心寮 理事長、元 更生保護法人 日本更生保護協会 常務理事
高橋 陽子 公益社団法人 日本フィランソロピー協会 理事長
田島 良昭 社会福祉法人 南髙愛隣会 理事長
但木 敬一 弁護士、元検事総長
辻 哲夫 東京大学教授、元厚生労働次官
堂本 暁子 前千葉県知事
戸苅 利和 法政大学・大学院客員教授、元厚生労働次官
古川 康 佐賀県知事
細川 佳代子 NPO法人勇気の翼インクルージョン2015 理事長
松矢 勝宏 全日本特別支援教育研究連盟 理事長、東京学芸大学名誉教授
山本 譲司 作家・NPO法人ライフサポートネットワーク 理事長、元衆議院議員

企画委員会(50音順、敬称略)

荒木 陽子 株式会社 電通プロデューサー
内山 登紀夫 福島大学教授
川島 志保 弁護士、日本弁護士連合会「高齢者・障害者の権利に関する委員会」委員長
北岡 賢剛 滋賀県社会福祉事業団 理事長
武田 牧子 社会福祉法人 南高愛隣会 東京事務所長
野沢 和弘 毎日新聞論説委員
堀江 まゆみ 白梅学園大学教授
和田 敏明 ルーテル学院大学教授

その他専門家の方に御協力いただきます。
(2012年7月現在)        

顧問

村木 厚子 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)
村木 太郎 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長代理

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リーフレット